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●原料資源(Fe,Si)が地球上に豊富に存在し,環境に無害
環境に対して低負荷であり埋蔵量が多い物質から成る半導体を「環境半導体」と呼んでいます.例としてO,Si,Ca, Fe,Ba,Al等が挙げられ,それらから構成される半導体のバンドギャップは赤外から可視光領域まで広がりを見せます.β-FeSi2のその値は約0.85eVと言われています.
●光吸収係数が非常に高い
単結晶Siの約100倍の値を持っています.そのため太陽電池に適用するとき,薄膜化が可能となりコストの削減を見込めます.また理論光電変換効率は16〜23%と言われています.ところでこの材料はゼーベック係数も高く,焼却炉や自動車エンジン等の廃熱を利用した高効率熱電変換材料として既に実用化の例があります.
以上の利点から,安価であり環境に非常に優しい薄膜太陽電池の材料として期待されています.
β-FeSi2の作製には様々な方法が用いられ,例えば分子線エピタキシ(MBE)法,化学気相輸送(CVT)法,RF-マグネトロンスパッタリング法,レーザアブレーション法等があります.本研究室ではより簡易で低コストな方法で作製することを目的としていて,低温・高速堆積が可能なスパッタリング法を用いています.
以下に製膜工程の概略を記します.
@基板を有機溶剤で超音波洗浄
Aスパッタリング装置を用いてFeSi原料膜を堆積
※この前にコーティング層を堆積させる場合もあります.これは,基板からの不要な拡散を防止したり,Siの追加的供給源になり,膜質の向上に役立つと考えられています.
B堆積膜をアニール装置で高温熱処理(約850℃)
こうして作製した試料に対して,各種分析装置を用いて評価を行います.
(1)透明電極層
光を透過させる必要があるため,透明導電材料であるIndium Tin Oxide(ITO)や非常に薄いAu膜を考えています.
(2)ヘテロorホモ接合層
下層のβ-FeSi2薄膜の伝導型を考慮して接合作製原料を選びます.不純物ドーピング等でβ-FeSi2同士の良好なホモ接合を形成させることに重点をおいています.
(3)β-FeSi2薄膜
スパッタリングに使用するFe,Siの原料母材(ターゲット)として,FeSi合金ターゲットやSiターゲット上にFeウェハを載せた複合ターゲットを用いています.現在は,FeとSiの組成比の融通が比較的利く後者を主に利用しています.
(4)裏面電極基板
これまでSi基板上で良質なβ-FeSi2薄膜が得られてきました.しかし半導体基板を用いると,太陽電池に適用したとき,光起電力の発生源が薄膜と基板のどちらなのか判断が困難となってしまいます.つまり基板からの影響を無視できません. そこで,完全に薄膜からの光発電だと証明するため,光起電力発生に寄与しない金属上に製膜することを試みています.低コスト化を狙い,CuInS2と同様に「Mo薄膜+ガラス基板」上への製膜にも着手しています.
主に,X線回折装置(XRD)で結晶性の評価を,走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)で表面状態の観察・分析を,X線光電子分光分析装置(XPS)で深さ方向への元素組成分析をそれぞれ行っています.以下に評価結果の参考例を示します.
β-FeSi2を太陽電池材料として用いるためには,光吸収係数に依存する充分な膜厚があり,クラックや穴の無い良質な連続膜であるという条件がまず必要となります.金属基板上においてもSi基板上と同等の良質な薄膜が得られてきましたが,未だ改善の余地があります.
β-FeSi2を太陽電池に応用できれば,製造,利用,廃棄までの全ての過程で環境に配慮した技術として非常に有益です.