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超音波噴霧熱分解法による酸化亜鉛(ZnO)ナノ微細結晶の作製


背景

酸化亜鉛(ZnO)とは

超音波噴霧熱分解法とは

ZnOのナノ微細結晶

ZnOのナノ構造の応用

今後の課題


背景

酸化系化合物材料である酸化亜鉛(ZnO, zinc oxideは多様な光・電子・磁気機能を有する材料として注目を集めており,透明導電膜,センサー,半導体光・電子デバイス,光回路,ナノデバイス,表面処理薄膜など,極めて幅広い範囲への応用が期待されている.現在,我々はは同材料の特有構造の一つであるナノワイヤー(NWs,nanowiresを生かした新世代電子デバイスを実現するため,廉価な成長方法である超音波噴霧熱分解法を用いてNWsの大きさ及び成長位置の制御といった成長プロセスの基礎的な研究を行っている.

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酸化亜鉛(ZnO)とは?

II-VI族酸化系化合物材料であるZnOは,紅亜鉛鉱(ZinciteO)として天然に産出し,六方ウルツ鉱(Wurtzite)結晶構造を持つ.この構造は,Znの六方最密充填格子と,そこから垂直方向に8分の3だけ移動したO原子の六方最密充填格子とを重ね合わせた構造である.閃亜鉛鉱構造と類似し,それぞれの原子の囲りを他の元素による四面体が囲んでいる.格子定数はa=0.32496nm,c=0.52065nm及びz=0.375である.ZnOのウルツ鉱格子を図1.1 に示した.室温での禁制帯幅はEg=3.2-3.3eV である.真性ZnOは化学量論組成に近い状態では絶縁体のように振る舞うが,浅いドナー準位に関与する酸素欠陥(Vo)及び格子間亜鉛(Zni)によって化学量論組成からずれるため,n型導電性を示す.各種の化学的又は物理的手法により,多結晶から単結晶まで広く合成されており,その構造もバルクや薄膜に始まり,ナノロッドやナノボールなど大変多彩な様相を示している.ZnOは多様な光・電子・磁気機能を持つ材料として注目されており,透明導電膜をはじめ,センサー,半導体光・電子デバイス,光回路,ナノデバイス,表面処理薄膜など,極めて幅広い範囲への応用が期待されている.

図 1.1 ZnOのウルツ鉱結晶構造

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超音波噴霧熱分解法とは?

本研究では,NWsの成長方法として,独自に製作した超音波噴霧熱分解装置を用いた.この方法は化学的気相堆積(Chemical Vapor Deposition)法の一種である.この方法は強力な超音波の振動(数MHz帯)により液体状態の原料を霧化させる事で霧が発生し,生成された霧を目的箇所まで輸送ガスにより移動させ,適切な熱エネルギーにより霧の分解や化学反応が生じて新たな物質が形成されるという成膜方法である.大量生産が可能なのでコスト面に優れた方法であり,非真空状態での操作ができるため酸化物の形成に適した方法でもある.また,原料となる溶質として使用可能な物質の種類が多いことやその溶質は溶液状態で扱われるため成分・組成の調整が簡単という特長がある.堆積温度,原料霧の供給速度,原料溶液の性質(表面張力,液体密度等),超音波の励振周波数等は形成される物質の性質に影響を及ぼす重要なパラメータであり,殆どは制御可能なので,制御性の良い方法である実際に用いた装置の模様を図1.2に示した.

図 1.2 超音波噴霧熱分解装置

 

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ZnOのナノ微細結晶

図1.3では様々な方位に成長したZnO NWsの明視野電子顕微鏡(Bright field TEM)像を示した.図1.3(a)に示したNWsは平坦な先端を持っており,六方ウルツ鉱結晶の[0001]方位に成長している.図1.3(b)は[10-10]方位に成長したNWsであり,先端は3つの面で構成されている.図1.3(c)に示したNWsは鋭い先端に成長し,[11-20]方位の成長により現れた形状だと考えられる.制限視野電子線回折(SAED, selected area electron diffrection)の結果からはNWs各種の形状に対応した回折パターンが得られ,良質な単結晶であることが確認さている.また図1.4に示した高解像透過電子顕微鏡写真(HRTEM,)からも鮮明な格子の配列が観察された.

図 1.3 ZnO NWsの主な成長方位

図 1.4 ZnO NWsの高解像透過電子顕微鏡写真

 

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ZnOナノ構造の応用

ZnOは縦横比(aspect ratio)の高い針状ナノ構造を持つことで,この特徴を活かした新規ナノデバイスへの応用が期待されている.その中,ZnO NWsは負の電子親和力を示すほか,機械的な安定性や高導電性を有し電界電子放出効果に有望な材料の一つとして関心が寄せられている.熱電子放出現象に違って電界電子放出現象は高電界下に固体の中から電子はトンネル効果によって真空へ放出する現象であり、低温カソード放出が可能であることが特徴である.近年,その現象を基にした電界放出薄型ディスプレー(Field Emission Flat Panel Display)の開発に関する研究が盛んに行われている.図1.5に電界放出薄型ディスプレーの基本構造を示した.

図 1.5 ZnO NWsの応用例

ZnOは平坦な薄膜形状では電界放出効果が殆ど見られないが,針状に形成した場合は電界放出効果が向上していることが報告されている.図1.5に表面形状と電界放出障壁(Field emission barrier)との関連性を示した.Fowler-Nordheim法則によって,電界放出による電流は,式1のように示すことができる.

 

ここで、eは電子の電荷,Eは印加電界,βは形状(縦横比)に依存するフィールド増大因子(field enhancement factor),φは仕事関数, AとBは定数である. 平坦な面より鋭い先端を持つワイヤー形状のほうがβ因子を向上させるため, 電界放出による電流が増加したと考えられる.

図 1.6 表面形状と電界放出障壁との関連性

現在,本研究室で作製したZnO NWsを用いて電界放出電流密度0.1<μA/cm2を得るのに必要な電界放出しきい値は約7 V/μmまでに達している。また、NWsの形状及び不純物の添加により仕事関数を制御することでさらに特性を向上させることが可能である.

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今後の課題

本方法は成長温度及び原料溶液のを適切に調整することでZnO微細結晶の形状を意図的に制御することが可能であると言える.また,本方法で作製したNWsは主に3つの結晶方位に成長することが確認された.しかしZnO NWs結晶をデバイスに用いるためには,ナノワーヤーの選択的な成長及び成長方位の制御方法の確立がまた課題として残されている.

 

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本研究内用の詳細は以下の文献を御覧下さい

[1] M. T. Htay, Y. Hashimoto, and K. Ito: Jpn. J.Appl. Phys. 476 (2007) 440-448

[2]M. T. Htay, M. Itoh, Y. Hashimoto, and K. Ito: Jpn. J.Appl. Phys. 46 (2008) 541-545

[3] M. T. Htay, Y. Tani, Y. Hashimoto, and K. Ito: J Mater. Sci.: Mater. Electron. DOI: 10.1007/s10854-008-9613-58

 
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